聞き覚えアリ!おすすめジャズナンバー
「今までジャズにはあまり縁がなくて」と思い込んでいるあなたも、ここに挙げた30曲のうち、半分、あるいはそれ以上のメロディは、必ず耳にしているはずだと思います。
かつて大流行したり、CMや番組に使用されたり、レストランや催事場のBGMとして今も街中にさりげなく流れていることが多いからです。
今回の解説を読んで気になったナンバーがあれば、とりあえずはYouTubeなどでチェックしてみてください。
「そうそう、これこれ。ジャズって、やっぱりいいねえ」と、懐かしく感じたり、ジャズを身近に感じてくるはずです。
このように、聴き慣れた名曲からあらためて入門するのも、いっそう効果的な方法のひとつです。
どのようなジャズマンの演奏がおすすめなのか、聴き応えがあるか、ざっくりと紹介していきたいと思います。
アイ・ガット・リズム
ジョージ・ガーシュインがミュージカル『ガール・クレイジー』のために書いたナンバーです。
最近では、ピアニスト、上原ひろみがデモンストレーション的によく弾いていますね。テレビでご覧になった方もいらっしゃるはずです。
この曲は、もっともジャズマンのアドリブの素材になっている曲のひとつでもあります。
おすすめバージョンはたくさんあるのですが、ベーシスト、ポール・チェンバースのアルバム『ゴー!』や、ピアニスト、ハンプトン・ホーズのトリオに聴きどころ多し。なおかつエキサイティング!
枯葉
もとはといえばシャンソンの曲ですが、ジャズのスタンダードの筆頭曲にもなっています。
アルバム『サムシン・エルス』収録のマイルス・デイヴィスのミュート・トランペットの名演が決定的名演といえましょう。
ピアノ・トリオなら、ビル・エヴァンスとウイントン・ケリーを聴きくらべてみると、両ピアニストの資質、アプローチの違いを楽しめます。聴き比べることによって、ジャズ鑑賞の楽しみを見出せるかもしれません。
サックスならスタン・ゲッツの儚い吹奏がしみじみとした味わいで「秋だなぁ」と感じることでしょう。
朝日のようにさわやかに
シンプルなコード進行ゆえ《枯葉》同様、ジャズの楽器演奏を始めた初心者がジャムセッションなどでよく演奏する曲でもあります。
また、日本人が大好きな(かつての日本人のオジサンたちが好きだった)ベンチャーズのコード進行にも似たようなナンバーがあることからも、ものすごく日本人好みのツボが至るところにある曲なのではないかと思います。
メロディも構造もシンプルなため、初心者でも曲の骨格を摑みやすいはず。
まずはソニー・ロリンズのライヴ盤『ヴィレッジヴァンガードの夜』や、ソニー・クラークのピアノ・トリオの演奏を聴いてみよう。
いつか王子様が
ディズニー映画『白雪姫』に使用されて有名になったナンバーですね。
マイルス・デイヴィスやビル・エヴァンス・トリオによる名演のほか、ハービー・ハンコックとチック・コリアの、2台のピアノによる共演盤『イン・コンサート』の演奏が手に汗握る展開で聴かせてくれますね。
ジャズの魅力の一つに「生まれ変わらせの魔法」があるのですが、聞き飽きた耳に馴染みがありまくりの曲でも、アプローチと演奏の仕方次第では、まったく新しい曲に聞こえてしまうという楽しさがあります。
イパネマの娘
テナーサックス奏者、スタン・ゲッツと共演したアストラッド・ジルベルトの歌唱で一躍有名になったナンバーです。
淡々と呟くように歌うボサノヴァ的な歌唱とは対極的に、重量感たっぷりのサラ・ヴォーンや、スキャットを交えるエラ・フィッツジェラルドやの歌唱が、まるで曲をねじ伏せているかのようで興味深いですね。
ウォーターメロン・マン
ピアニスト(キーボード奏者)ハービー・ハンコック初期の代表作で、自身もブルーノ―トからのデビュー作に初演を吹き込んでいますが、じつはこれに先駆けてレコーディングをしたのがパーカッション奏者のモンゴ・サンタマリア。
ハンコックが子どもの頃に聞いたスイカ売りのかけ声とジャズロック風のリズムが見事に融合したナンバーです。
A列車で行こう
デューク・エリントン楽団でエリントンの右腕として活動したビリー・ストレイホーン作曲の快活な曲調のナンバーです。
エリントン楽団での演奏ではアルバム『ポピュラー・エリントン』のバージョンが聴きやすいでしょう。とにかくエリントンはたくさん録音を残しているので、どれを選ぶか迷っているうちに、選ぶのが面倒くさくなって聞かず嫌いになってしまう人もいるので、最初に聴く場合は、『ポピュラー・エリントン』と脳内にインプットしておきましょう。
エリントン以外では、トランぺッター、クリフォード・ブラウンとドラマー、マックス・ローチの演奏がおすすめ。まるで列車が走る様を活写しているかのようです。
テナーサックス奏者、ジェームス・カーターが暴れに暴れまくる『ジュラシック・クラシック』が凄まじく楽しいので一聴をおすすめしたいですね。
オール・オブ・ミー
1931年の映画『ケアレス・レディ』で使用され、20年後のフランク・シナトラの歌唱で有名になったナンバーです。
サックスではレスター・ヤングの名演がいいですねぇ。
アルトサックス奏者、リー・コニッツがテーマのメロディーを吹かず、いきなりアドリブに突入する演奏(アルバム『モーション』収録)をたのしめれば、あなたも「通」の仲間入り。
帰ってくれたらうれしいわ
ジャズ喫茶では、閉店時間をすぎても帰らない客がいる時に流す定番。というのは冗談ですが、アルトサックス奏者、アート・ペッパーの名演とヘレン・メリルの名唱が定番中の定番で、少なくともこの二つは聴いておきましょう。
ズシンと重厚に響くバド・パウエルのピアノも味わい深いです(『バド・パウエルの芸術』に収録)。
クール・ストラッティン
ピアニスト、ソニー・クラークの日本での人気を決定づけたブルースナンバーです。ハイヒールのジャケットがこの曲のムードを象徴しているかのように、ニューヨークの人混みの中、気取って歩く様をゆったり気味のテンポとメロディーが活写しているかのようです。
渋いところでは、ベーシスト、北川潔がウッドベース一本で演奏しているバージョンが「男」を感じさせてカッコいい。
クレオパトラの夢
かつて作家・村上龍のTV番組『RYU’S BAR』のオープニングに使用されていたナンバーで記憶している方も少なくないと思います。
作曲物はピアニスト、バド・パウエルで、演奏のほうもバド・パウエルがブルーノートに録音したバージョンが決定打。
パウエルに心酔している秋吉敏子やクロード・ウィリアムスンら、いわゆる「パウエル派ピアニスト」も演奏していますが、残念ながら本家本元の貫禄の足元にも及ばないと感じます。
酒とバラの日々
年輩の方ならアンディ・ウィリアムスの歌唱を思い浮かべるでしょうが、ジャズだったら、ピアニスト、オスカー・ピーターソンのアルバム『プリーズ・リクエスト』のバージョンが代表的名演といえましょう。
ベースでメロディーを奏でるジャコ・パストリアスの演奏も多くのベース好きたちを魅了し、ビル・エヴァンスが死の直前にライヴで演奏した熱い演奏も、聴く人の胸を熱くさせます。
ザ・サイドワインダー
トランぺッター、リー・モーガン作曲のジャズロックのナンバーです。ジャズロックといっても、ロックのような8ビートではなく、あくまで4ビートが基調となった揺らぎのあるリズムのように今の耳には聴こえると思いますが。
そういえば昔、ヴァイオリンで演奏されたクルマのCMもあったので、一聴すれば「ああ、これね!」と誰もがピンとくることでしょう。
リー・モーガンのブルーノートの初演もいいけれど、アルバム『ライトハウス』のライヴ盤では、スタジオ録音の演奏よりも数段エキサイティングな演奏が展開されています。
サマータイム
ジョージ・ガーシュインが、オペラ『ポーギー&べス』のために作曲し、赤ん坊を寝かしつけるための子守歌として使われました。
しかし、眠りを叩き起こすようなコルトレーンの演奏や、ギラリと輝く夏の太陽を思わせるミュート・トランペットを吹くマイルス・デイヴィスなど、ジャズマンによって解釈、演奏はさまざま。
ミシェル・ペトルチアーニのピアノとオルガン奏者、エディ・ルイスのデュオの演奏がなかなか良いです。そして、ジャズって幅広いなぁと感嘆することでしょう。
また、「耳の冒険家」は、アルバート・アイラーの捩れてむせぶ、人間の感情のすべてを吐き出したかのような演奏もおすすめ。世界観が変わってしまうかもしれません。
処女航海
ハービー・ハンコックを代表する1曲です。
メロディーを口ずさんでみましょう。
♪ぱやや~・ぱやややや~。
音階を変えた、たった2種類のメロディーパターンの組み合わせではありますが、単調に感じないのは、重層的な和音の響きゆえ。
この深みのある響きが演奏におけるキャンバスの役割を果たし、ジャズマンたちは音で自由に海の絵を描いているのです。
セント・トーマス
テナーサックス奏者、ソニー・ロリンズ作の陽気なナンバーですね。
彼の母親がヴァージン諸島出身のため、幼い頃からカリブの音楽・カリプソに親しんできたロリンズの体内から自然に湧き出た旋律のようです。
彼のリーダー作『サキソフォン・コロッサス』に代表的名演が収録されていますが、これとはまったく対照的なデニー・ザイトリンのカチコチに固いピアノも面白いですね。全然南国じゃないじゃん!寒空じゃん!って。そこがジャズの面白いところ。
チュニジアの夜
トランぺッター、ディジー・ガレスピー作曲のアフロリズムと4ビートが組み合わされたテーマのナンバーです。
チャーリー・パーカー、バド・パウエル、ソニー・ロリンズ、アート・ブレイキー、デクスター・ゴードンと、錚々たるジャズ・ジャイアンツたちが名演を残しています。
色々なアプローチがあるのですが、基本熱い(暑い)曲なので、にぎやか、大人数編成で演奏されたほうが、この曲は映えるのではないかと思います。
もちろん、バド・パウエルの「業」を感じさせるピアノ・トリオもスゴイのですが。
テイク・ファイヴ
ジャズを知らない人がイメージする「ジャズっぽい曲」の筆頭なのではないでしょうか。
デイヴ・ブルーベックのゴツゴツしたピアノと、流麗なポール・デスモンドのアルトサックスの対比が見事な5拍子のナンバーです。
ちなみにタイトルの意味は「5分の曲を演ろうぜ」と「5分、休もうよ」。この2つをひっかけたダブルミーニングの言葉なんですね。
ディア・オールド・ストックホルム
スウェーデン民謡をスタン・ゲッツが取り上げたら、これがジャズにピッタリ。スタンダードになっちゃった!という名曲。
マイルスもオープンのラッパとミュートをつけたラッパでそれぞれ名演を残しています。
あとはバド・パウエルのしみじみとしたピアノも忘れちゃいけませんね。
バードランドの子守唄
サラ・ヴォーンとクリス・コナーの名唱が有名です。
最近だと(もうだいぶ昔になってしまった?)日本のポップス歌手のJUJUも歌って一躍有名なナンバーの仲間入りを果たしましたね。
インストだとバド・パウエルのアップテンポ・ヴァージョンもなかなかの迫力(アルバム『アット・マッセイ・ホール2』に収録)。
ファイヴ・スポット・アフター・ダーク
健康ドリンクのCMに使用され、多くの人が耳にしている(はず)。
テナーサックス奏者、ベニー・ゴルソンの作曲で、彼がトロンボーン奏者のカーティス・フラーと組んだ「ジャズテット」で演奏したバージョンが決定版といえましょう。
トロンボーンとテナーサックスの音色が暖かくまろやかに溶け合い、まるで温泉に浸かっているような心地よさを味わえます。
フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のエンディング・テーマ、そして宇多田ヒカルのレパートリー(これもエヴァ)としても有名ですが、元はフランク・シナトラやナット・キング・コールの歌唱でヒットしたナンバーです。
最初のタイトルは《アザー・ワーズ》だったのですが、タイトル変えたらヒットしたという。
女性ヴォーカルではジュリー・ロンドンやナンシー・ウイルソンがオススメ。
インストではロイ・ヘインズのアルバムを聴いてみよう。ローランド・カークがすごい!
マイ・ファニー・ヴァレンタイン
歌詞の内容は「お前の顔はヘン(ファニー)だけど、そんなお前が愛おしい」というラヴソングなのですが、そんな歌も緊張感たっぷりにピシッ! ! ! と締めまくった演奏に昇華させてしまうマイルスの手腕は大したものです。
ちなみにチェット・ベイカーの、耳元で息を吹きかけるかのような歌唱も、たまらん人には「たまらん!」らしいです。
マイ・フェイヴァリット・シングズ
ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の挿入歌だが、ジャズの世界では、ジョン・コルトレーンが繰り返し演奏しているため、彼の曲だと勘違いしている人もいるようです。
ヴォーカルでは、マーク・マーフィーが絶妙な崩しを入れながらノリよく歌うバージョンがいいです。これは、アルバム『ラー』に収録されています。
ミスティ
ピアニスト、エロール・ガーナー作曲の美しいバラードで、ガーナーを代表するナンバーでもあります。
テンポやアレンジを変えるなどの「捻り」を加えても聴けてしまうスタンダードが多い中、この曲は、スローテンポ以外は似合わないのではないかと個人的には感じています。
ガーナーの演奏のほか、ヴォーカルではエラ・フィッツジェラルドの歌唱がオススメ。
モーニン
出だしのピアノを聴けば、誰でも一発で覚えてしまうほどのキャッチーさ。
日本でウケたのもわかるような気がします。「蕎麦屋の出前持ちも、モーニン口笛を吹いていた」と言った評論家もいたほど、ジャズには関係なさそうな職業の人ですら親しんでいたというくらい、日本全土に一時期は浸透していたメロディだったのでしょう。
決定打はアート・ブレイキーのアルバム『モーニン』といきたいところだけれども、「通」は『サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ』を挙げるでしょう。なにせ観客の熱気が凄いんです。
もちろん、作曲者であるピアニスト、ボビー・ティモンズのピアノトリオの演奏も秀逸。
最近では、コミック(アニメや実写映画にもなった)『坂道のアポロン』でも登場人物たちの友情をつなぐ重要な曲として登場していましたね。
モリタート(マック・ザ・ナイフ)
明るくウキウキする曲調なので、聴いていて楽しいのですが、曲の構造自体が単純なので、逆に「聴かせる」演奏をするのが意外と難しい曲でもあるのです。
ソニー・ロリンズとコールマン・ホーキンス。この二人のテナーサックス奏者の演奏は絶対に聴いておくべし! ヴォーカルだったらエラ・フィッツジェラルドのライヴが圧巻です。
ラウンド・ミッドナイト
マイルスの名演が決定打であることは間違いないのですが、ジョージ・ラッセルのアルバムで臓腑を吐き出すかのような「肉声」をアルトサックスで聴かせるエリック・ドルフィーもこれまた強力。
肝心な作曲者セロニアス・モンクの演奏は『セロニアス・ヒムセルフ』の哲学的ピアノ・ソロで。
レフト・アローン
角川映画『キャバレー』で一躍有名になった感もある曲。名曲なのですが、ジャズ喫茶のレコード係にとっては耳タコすぎてリクエストされたくない曲のひとつのはず(よってジャズ喫茶でリクエストする際は注意!)。
作曲者、マル・ウォルドロンのアルバムでジャッキー・マクリーンが吹くバージョンが有名だが、エリック・ドルフィーがフルートを吹くナンバーも素晴らしい。
ワーク・ソング
《モーニン》もそうですが、片方の楽器が奏でたメロディーを、別の楽器が呼びかけに応えるようにメロディーを奏でることを「コール・アンド・レスポンス」と呼ばれています。
この曲もその手法を用いている。ナット・アダレイのピリッと締まったコルネットが魅力の、その名もアルバム『ワーク・ソング』の演奏がオススメ! この演奏に参加しているウェス・モンゴメリーのギターも良い。ボビー・ティモンズのピアノも良い!