ジャズ入門~いきなり「最高傑作」を聴くとジャズ嫌いになるかもしれない

絵の知識や造詣のない人が、いきなりピカソの「ゲルニカ」や「泣く女」を見て「最高傑作!」と感じることってあまり無いような気がします。

いや、直感的に素晴らしさを感じ取り、魂が震える人も中にはいるかもしれませんが、ごくごく少数のようなな気がします。

そもそも、ピカソのほかの絵を知らない人が初めて見た最初のピカソの1枚の絵を見ただけで「(ピカソの)最高傑作」と言えるわけありませんからね。

ジャズにおいても同様です。

ジャズの入門書を紐解くと、最高傑作、代表作、問題作などの文字のオンパレードです。

『至上の愛』⇒ジョン・コルトレーンの最高傑作

『アセンション』⇒ジョン・コルトレーンの問題作

『直立猿人』⇒チャールス・ミンガスの代表作

『ビッチェズ・ブリュー』⇒マイルス・デイヴィスの問題作

『ジャズ来るべきもの』⇒オーネット・コールマンの問題作

『ブリリアント・コーナーズ』⇒セロニアス・モンクの最高傑作

などなど。

もちろん、上記アルバムは最高傑作だったり問題作とされる理由はそれなりにあるわけで、一概に否定をする気はまったくありません。

むしろ、その通りだと思います。

しかし、これらジャズマンの他の作品を聴かずに、いきなり「最高傑作」的なるものを聴いたところで、「どこが最高傑作なの?」となるのではないでしょうか?

最高傑作というのは、いうまでもなく最高の作品。

「高」という文字から山登りを引き合いに出しますと(?!)、富士山を登ったことがない人が、いや、それどころか高尾山や六甲山すらも登った経験のない人が、世界最高峰のエベレストにいきなり登山するようなものです。

楽しみよりも苦しみのほうが大きいのではないでしょうか?

最初から最高のものを味わいたいという気持ちも分かりますが、表現者の語り口、表現者の特徴などを理解しないまま、いきなり最高のものに接しても、その良さを分からずじまい、いや、それどころか「どこが最高なんだよ?!もうこの人の音楽聴くのやーめた!」という勿体ないことになりかねません。

ジャズは個性の音楽ですので、表現者一人ひとりの語り口、表現には特徴があります。

ですので、彼らの表現スタイルを理解した上で、「最高傑作」を耳にしたほうが、「なるほど、この人のスタイルが登りつめた結果、こういう作品になったのだな!」と腑に落ちる可能性が高まります。

たとえば、ジョン・コルトレーンならば、圧倒的な音数でバイタリティ溢れるテナーサックスを吹くことが大きな特徴のテナーサックス奏者なので、『ジャイアント・ステップス』や、『ソウル・トレーン』を聴いたほうが、彼の特徴と音楽の素晴らしさが一致しているので入門者は楽しめると思います。

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また、ベーシスト、チャールス・ミンガスは《直立猿人》よりも、もっと魅力的かつ分かりやすい名曲をたくさん書いている作曲家でもあるので、彼の個性と太いベースの特徴が分かりやすい形でバランスよく収録されている『ミンガス・アー・アム』のほうが初心者にはおすすめです。

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マイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』は、ジャズよりもむしろロックやファンク、プログレ好きの人が聴いたほうが一発で虜になる可能性を秘めた名盤ですが、ことマイルス・デイヴィスのトランペットの魅力を味わうのであれば、このアルバムはアンサンブルやサウンドテクスチャーが魅力なところもあるので、『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』のようなアルバムを聴いたほうが、マイルスのデリケートかつ大胆なトランペットプレイの魅力、個性を味わえるのではないかと思います。

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オーネット・コールマンの『ジャズ来るべきもの』は、当時は問題作と騒がれていたようですが、現在聴けば、比較的普通のジャズのように聞こえますし、いったいどこが問題作だったんだ?と首をひねる方も多いと思います。

ですので、この作品の場合は、ふつうに接していただければ、オーネットの魅力やセンス、美学、語り口が凝縮されていますので、入門アルバムとしても良いのではないかと思います。

むしろ「問題作」という三文字が余計な先入観を生み、「聴いてみよう!」という気持ちを萎えさせている要因なのではないかと思うほどです。

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これは、珍しく「問題作」でありながらも「入門盤」にも相応しいアルバムといえそうですね。

最後に、セロニアス・モンクの『ブリリアント・コーナーズ』。

これも、最初に聴いた人は、「いったい、これのどこが最高なの?」と感じることでしょう。

セロニアス・モンクというピアノの独特さ、特徴を知りたければ、最初にこのアルバムを聴くよりも、むしろ『セロニアス・モンク・トリオ』を聴いていただいたほうが、彼のユニークさを分かりやすく体感できるのではないかと思うのです。

このように、いきなり「最高傑作」を聴いて、一気に「わかった気分」になってやろうと意気込まずに、もう少しゆっくりと外堀を固めながら、じっくりと味わっていったほうが、結果的にジャズに挫折することなく、長く楽しめるようになれるのではないかと思うのです。

ま、こういうことって、ジャズに限らずどの分野においても同様な考えはあてはまるとは思いますが。

無免許の人が、いきなりF1乗ろうとするとか、
投資経験無しの人が、いきなり先物取引に手を出すとか、
彼女いない歴が人生歴と等しい人が、いきなり女優を口説こうとするとか、
四則計算の計算問題をよく間違える人が、いきなり微分・積分に手を出すとか。

それと同様、あんまりこういう言葉は使いたくはないのですが、ジャズにも「段階」のようなものがあると思うんですよ。

この「段階」を踏み違える人が、いわゆる「ジャズに挫折する人」です。

このブログでは、初心者向けの作品もいろいろと紹介していますので、自分が楽しめそうな作品を見つけていただき、素敵なジャズをお楽しみください!