※ジャズ初心者対象に、できるだけ分かりやすく書いてみます。
我々が日常的に聞いている音楽と、ジャズという音楽のちょっと違う点といえば、「即興」の要素でしょう。
もちろん、ロックや歌謡曲にも歌と歌の間にはさまれる間奏に、ギターソロがはいったりもします。
そして、そのギターソロは即興演奏であることも少なくありません。
(しかしながら、イーグルスの《ホテル・カリフォルニア》や、BOØWYの《B・Blue》のように、あらかじめ決まったメロディのものもありますが)
でも、いくら歌と歌の間にはさまれる楽器のソロが即興演奏(アドリブ)であったとしても、曲の中で即興演奏が占める要素は、30%には満たないと思います。
それに対して、多くのジャズは(ジャズヴォーカルを除いて)、即興演奏が占める要素、パーセンテージが上記音楽とは逆転している場合が多いのです。
つまり、演奏の最初と最後は、決まったメロディやアンサンブルを奏でるにしても、演奏の大半は即興の比重が高いものが多いのです。
この最初の決まったメロディのことを「テーマ」といいます。
そして、この「テーマ」は曲の最後にも演奏されます。
最初の「テーマ」と、最後の「テーマ」の間にはさまれた、残りの部分は、だいたいが即興演奏で埋められることが多い。
この即興演奏がよくわからない、難しいと感じる人が多いからこそ、「ジャズは難しい」というイメージが常につきまっとっている大きな原因であると考えられます。
もちろん、最初は何がなんだか分からないと思います。
しかし、何度も聴いているうちに、だんだんと即興演奏を奏でているジャズマンの語り口に親しみを抱くようになってくることもあります。
メロディだけではなく、音色だったり、リズムの乗り方だったりと、ジャズマンの演奏を好きになれる要素は、即興演奏の中にはたくさんあるはずです。
いやむしろ、即興だからこそ、演奏している楽器奏者の個性がむき出しになりやすいということもあります。
この露になったジャズマンの個性が分かれば、その個性に対して好感を持つこともあれば、好みではないという判断もつくようになれるのです。
ジャズマンのその「語り口」を理解できるまでは、人によっては時間がかかるかもしれませんが、繰り返し聴くことによって、少しずつ楽器を通して「言いたいこと」が分かってくるはずだと思います。
もっとも、先ほどから「即興」と書いていますが、アドリブパートの最初から最後までのすべてが即興演奏であるとは限りません。
むしろ、多くのジャズマンは自家薬籠中の得意なメロディをストックとして持っています。
この得意なメロディを「ここぞ」という箇所で繰り出すことで、己の個性を発揮することも多いため、気になるジャズマンを見つけたら、その人の演奏を数曲チェックすると良いと思います。
違う曲なのに、似たようなメロディが登場したら、それがその人が得意とするメロディの可能性が高いです。
そして、そのようなメロディを発見することが出来れば、少しずつ他のメロディにも耳がいくようになり、次第にジャズマンのアドリブにも興味を持つようになっていけるのではないかと思います。
また、ストックフレーズ(ストックしているメロディ)が発見できなくても、ジャズマンによっては親しみやすいメロディを奏でる人も少なくありません。
アドリブ(即興演奏)だからといって、すべてのメロディが難解なものだとは限らないのです。
その例として2曲挙げてみましょう。
まずは、ソニー・ロリンズというテナーサックス奏者の《中国行きのスローボート》。
この人のアドリブは、とてもメロディアスです。
まるで、アドリブのメロディも「中国行きのスローボート part2」といっても差し支えないほど、テーマのメロディの雰囲気をそのまま残した感じで、親しみやすい旋律を奏でていると思います。
この演奏は、『ソニー・ロリンズ・ウィズ・MJQ』というアルバムに収録されています。
もう1曲は、今度はピアニストです。
ピアニスト、バド・パウエルの《クレオパトラの夢》を聴いてみましょう。
この曲は、様々な人が演奏している上に、エキゾチックな旋律が印象的なナンバーなので、一度は耳にしたことがある人も多いはずです。
このパウエル自作のナンバーを、パウエルはピアノで、わかりやすいメロディでアドリブを展開していきます。
それこそ、次から次へとメロディが湧き出るかのように。
自分の曲だからということもあるのか、テーマでは言えなかったメロディを次から次へと繰り出し、あたかも曲の最初から最後までがあらかじめ作曲されたかのごとく、起承転結の流れがしっかりと捉えやすく、なおかつ印象的なフレーズ(メロディ)のオンパレードなのです。
この曲は、『ザ・シーン・チェンジズ』というアルバムの1曲目に収録されていますので、是非聴いてみていただきたいと思います。
ジャズマンのアドリブのすべてを「即興演奏だから難しいに違いない」という先入観を取り払い、今回紹介したナンバーに気軽にトライしてみましょう。
たぶん、色々と感じることがあるはずです。