「【楽譜紹介】すぐ弾ける はじめての ひさしぶりの 大人のピアノ」(こちら)と「【粟村本読み】エピローグ〜ビッチェズ・ブリュー、あとがき」(こちら)の動画に視聴者さまよりいただいたコメントを紹介した動画をアップしました。
コメント
サクサクさんからのコメント。
お話を伺っていてビル・ラズウェルがリミックスした「Miles Davis – Panthalassa: The Music Of Miles Davis 1969-1974」という作品を思い出しました。こちらの感想もいつか聞いてみたいですね。
パンサラッサ!
これはまた、イイ作品名が出てきましたね(笑)。
これ、私、けっこう好きです。
実は一時期、かなりの頻度でかけっぱなしにしていたことがあります。
私は能天気に「なーんか、気持ちええなぁ」とボーッとニヤニヤしながらかけっぱなしにしていたんですが、後にネットサーフィンとかすると、意外と(?)この作品、賛否両論なんですよね。
昔からの熱心なマイルス・ファンの中には、「原曲への冒涜だ」という強い意見を持っている人もいるようですし、「マイルスの危険な香りが消えてしまった」「牙を抜かれた」「ビル・ラズウェルの作品になってしまった」という批判もみました。
まあ、わからんでもないんですよ。
たしかに、『オン・ザ・コーナー』(最高!w)や、『Get Up With It』(最高!w)など、あの時代のマイルスというのは、ある種の混沌そのものですからね。
音は濁っているし、楽器同士はぶつかり合っているし、どこを聴けばいいのかも分からない。そしてどこかトゲトゲしたアグレッシブさもある。
いわば、どぶろくハリネズミ(なんじゃそりゃ?)。
しかも、あの時代のアルバムは二枚組が多いですよね。
ですから、人によっては「重厚長大」「怖い」「何だか怒られそう(?)」というネガティヴな印象を抱いてしまうかもしれません。
たとえば、興味本位で『ゲット・アップ・ウィズ・イット』を買って、「さて、エレクトリック・マイルス入門だ!」と意気込み、うっかり《ムトゥーメ》を再生してしまったとします。
「……なんじゃこりゃあ!」
再生停止。
以上!(笑)
「だめだ、おいらには早すぎた。」
「やっぱりアコースティック時代に戻ろう。」
そういう人もいたかもしれません。
だからこそ。むしろ、「入り口」はたくさんあった方がいいと思っています。
そして、『パンサラッサ』は、そのための非常に優れた入り口だったと思っています。
個人的な感想を言えば、良い意味で、微細なトゲが取れているんです。
少し音の表面が滑らかになっている。
もちろん、「少し」と言っても、それが好きな人にとっては「大問題」なのでしょうけれど、でも、そのおかげで、音の見通しがとてもよくなっている。
案外、エレクトリック・マイルス漬けになった人の方が、新たな発見があるかもしれません。
つまり、オリジナルが密林だとすれば、『パンサラッサ』は遊歩道付きの植物園なのかもしれません。
もちろん、密林の方が面白い、という人もいるでしょう。
それも分かります。
でも、私はどちらも好きです。
耳の冒険家からすれば物足りないかもしれませんが、誰もがいきなり密林に足を踏み入れる必要もない。
それから、もう一つ面白いのは、「オリジナルとは何か」という問題を考えるキッカケにもなるということですね。
中には「これはマイルスではなく、ビル・ラズウェルの作品じゃぁ!」という批判があります。
でも、考えてみると、これはなかなか難しい問題なんですよね。
というのも、私たちが「オリジナル」だと思っているコロムビア時代のマイルスの作品だって、完全に生演奏そのままというわけではありません。
テオ・マセロです。
優秀なプロデューサーだと思います。
彼は、テープ編集を行い、切り貼りし、順番を入れ替え、音を重ね、空間を作り、作品全体を構築していたわけです。
つまり、『イン・ア・サイレント・ウェイ』も、『ビッチェズ・ブリュー』も、『ジャック・ジョンソン』も、『オン・ザ・コーナー』も、「マイルスの音」であると同時に、「テオ・マセロを通過したマイルス」でもあるわけです。
そう考えると、『パンサラッサ』もまた、「ビル・ラズウェルを通過したマイルス」だと言えるかもしれません。
あるいは、「マイルスとラズウェルの共作」と言ってもいいのかもしれませんね。
もちろん、これには異論もあるでしょう(笑)。
しかし、私はわりと好意的です。
そもそもマイルス自身が、そういうことを嫌う人だったとも思えないんですよね。
むしろ、「面白ければいいじゃないか」と言いそうな気がします。
それに、エレクトリック・マイルスというのは、もともと時代の先端を走る音楽でした。
ジャズとロックを混ぜ、ファンクを混ぜ、インド音楽を混ぜ、ストックハウゼンを混ぜ、ジェームス・ブラウンを混ぜ、スライ・ストーンを混ぜ、何でも飲み込んで前へ進んでいった。
そういう音楽が、今度はアンビエントやダブやヒップホップやクラブ・ミュージックの文脈で再解釈される。
これは、ある意味、とても自然な流れだったのかもしれません。
そう考えると、『パンサラッサ』という作品そのものが、エレクトリック・マイルス的なんですよね(笑)。
長々と書いてしまいましたが、サクサクさんのおかげで久しぶりに聴きたくなりました。
そして、聴いた後、きっと『ゲット・アップ・ウィズ・イット』の《ムトゥーメ》を再生しちゃうんだろうな(笑)。
植物園も良いですが、密林育ちの密林の住人は、やっぱり密林に還っていくのだw
2026年2月3日