超ビル・エヴァンス入門~ジャズに挫折しないための2枚のアルバム

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ジャズの入り口にもなる

今年は令和元年。と同時に、ピアニスト、ビル・エヴァンスの生誕90周年でもあります。

べつにそれに引っ掛けて、というわけでもないのですが、新しい「ビル・エヴァンス入門」を書いてみたいと思います。

ビル・エヴァンスからジャズに入門するということは、ジャズ・ピアノ入門であると同時に、今後、末永くジャズを聴きたいと考えている人にとっても、格好な入り口でもあるのです。

メロディを味わおう

あれこれと御託を並べずに、結論を急ぐと、まずは、この2枚でビル・エヴァンスに入門すれば間違いはないと思います。

『ワルツ・フォー・デビー』と、『ポートレイト・イン・ジャズ』です。

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以前、ビル・エヴァンス入門という記事を書き、入門に最適なアルバムを7~8枚挙げさせていただきましたが、よくよく考えてみれば、いきなり7枚はありえないなと反省。最初は上記2枚でいいです。

『ワルツ・フォー・デビー』、『ポートレイト・イン・ジャズ』ともに、ベースがスコット・ラファロ、ベースがポール・モチアンと参加しているジャズマンは同じ人たち。

2枚選ぶのなら、別な時代のものや編成や参加ジャズマンは違うものを選んだほうが良いのでは?という疑問も出てくるかもしれませんが、まあまあ、これにはワケがあるのです。

説明しますね。出来るだけ簡潔に。

キーワードは「メロディ」です。

『ワルツ・フォー・デビー』で、思い切り美しいメロディを味わってください。

《マイ・フーリッシュ・ハート》、《ワルツ・フォー・デビイ》、《デトゥアー・アヘッド》、《マイ・ロマンス》、《アイ・ラヴズ・ユー、ポーギー)……。

どのナンバーも美しい旋律の宝庫です。
最初はエヴァンスが奏でるピアノのメロディを追いかけ、酔いしれるだけでよいと思います。

「美メロ」なんて言葉、「美魔女」みたいであまり使いたくないのですが、ここで奏でられるエヴァンスのメロディ、そしてピアノの音色の美しさは、とにかくため息が出るほど美しい。

これを味わうことが出来れば、まずは第一関門突破です。

ハーモニーを味わおう

しかし、メロディだけでは、いずれ飽きがきてしまいます。

なので、私は『ワルツ・フォー・デビー』を聴くと同時に、『ポートレイト・イン・ジャズ』の同時並行聴きもお勧めしたいのです。

なぜか。

もちろん、『ポートレイト・イン・ジャズ』の各曲で奏でられるエヴァンスのメロディも秀逸ではあります。

しかし、それ以上に、『ポートレイト・イン・ジャズ』というアルバムは、美しく深い「ハーモニー」をも味わえる名演奏の連続なのです。

たとえば、一曲目の《カムレイン・オア・カム・シャイン》の最初の数音の和音。

私が最初に購入したはじめてのジャズのアルバムが、この『ポートレイト・イン・ジャズ』だったのですが、CDの再生スイッチを押した瞬間飛び出てきた「出だしの和音」で一気に「世界」に引きずり込まれてしまいましたね。

この独特な響き、当時はジャズを語るボキャブラリーなぞ持ち合わせていない私は「うーん、まさにジャズだぁ!」と叫ぶしかありませんでした。しかし、その後、多くのジャズを聴いてきた耳で、再び《カムレイン・オア・カム・シャイン》の出だしを聴いてみると、やはり出だしの数音の和音は秀逸な響きだと感じるのです。

この《カムレイン・オア・カム・シャイン》以外にも次曲の《枯葉》、さらに《ブルー・イン・グリーン》など、素晴らしい響きで形作られているナンバーが多いのが『ポートレイト・イン・ジャズ』なのです。

ハーモニーを感じる感性を育むと良い

もちろん、メロディとハーモニーは不可分なものです。

ピアノやギターなどの「和音を出せる楽器」が参加していない編成のジャズは別として、通常はメロディとハーモニーは補完関係にあります。

だから、ビル・エヴァンスが『ワルツ・フォー・デビー』で奏でる美しいピアノは、和音の響きがあるからこそですし、逆に、『ポートレイト・イン・ジャズ』で、《枯葉》や《いつか王子様が》などのスタンダードのメロディが生き生きとした生命力を宿しているのは、エヴァンスの左手が醸し出すハーモニーのお陰でもあるのです。

ハーモニー、すなわち、3つ以上の音の組み合わせによって形作られる響きに興味を持つことが出来れば、長らくジャズを聴き続けることが出来るはずです。

しかし、世間では、ジャズを聴き始めて、わずか数年間でジャズを離れていく人もいます。

その理由のひとつは、「美メロ」なぞという流言飛語を真に受けたことにより「自分の感性が理解できる範疇の中でのわかりやすいメロディ」だけを追い求め、それ以外の要素を聴き取ろうとしない、あるいは聴き取ることが出来なかったことに原因があるのではないかと私は考えています。

だから、最初はメロディを追いかけるだけでもいい、しかし、それだけだと次第に「飽き」がやってくる、だからこそ、同時並行でハーモニーをも楽しめる演奏を聴きながら、少しずつ「響き」にも耳を傾ける習慣を身につければ、その後、エヴァンス以外のジャズも楽しめるようにもなれる可能性が高いのです。

極論ですが、「光と影」の追求が絵画の歴史だとすれば、音楽の歴史(特に、クラシックやジャズ)は、「響き」の追求の歴史であるという側面もあります。

もちろん、旋律の追求に生涯をかけた演奏家も多いですが(特に管楽器奏者は)、歴史のターニングポイントとなる作品の多くは、ハーモニー(あるいはコード進行)に対する考え方やアプローチに新たな光を充てたものが多いのではないかと思います。

それは、モード奏法を導入したマイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』しかり、限界近くまでコード進行を細分化したジョン・コルトレーンの『ジャイアント・ステップス』しかりです。

また、多くのジャズマンたちから畏敬の念で崇拝されたデューク・エリントンのビッグバンドのアレンジも、ハーモニーをユニークなかたちで探求したものですし、彼のハーモニーに対する概念を少人数で実現しようとした結果、もっともユニークな形で結実したのが、セロニアス・モンクの音楽であり、またチャールズ・ミンガスのグループのアンサンブルといっても良いでしょう。

また、カフェなどでよくかかっている「おっしゃれ~」な響きをたたえたボサノヴァは、元はといえば、サンバとジャズのハーモニーの融合音楽でもあります。

もちろん、上記ジャズマンの名前やアルバムタイトルをいきなり覚えようとする必要はありませんよ。しかし、今後、エヴァンスを聴いてジャズに興味を持ち、さらにもっと色々なジャズを聴いてみようと考えた際、必ず出てくる人たちと作品です。

ハーモニーに対する感受性が拓かれていれば、これらの作品や、それ以外の音楽に対しても、より楽しく、より深く楽しめる接することが出来るはずです。

極論するならば、音楽を「人間」にたとえるとすれば、
メロディは顔などの外見、
ハーモニーは性格や心

のようなものです。

美人!
あるいは、
イケメン!
と、
最初は、外見に魅了される人が大多数でしょうが(私もそうです)、しかし、もし付き合うのであれば、あるいは連れ添うのであれば、見た目のみならず、性格も重視したいですよね?

いや、むしろ外見も、もちろん良いに越したことはないが、それ以上に内面の人間性を重視する人のほうが多いのではないでしょうか?

「いやいや、オンナはやっぱり外見だよ」「娘は器量が良いというだけで幸せの半分を手にしている」なんて言っている人がいたら、その人は「面食い」です。

そのような嗜好で、音楽の外見≒メロディだけを「美メロ」なぞといって追いかけている人ほど、ジャズに飽きるのも早いわけです。

外見、見てくれだけで付き合いはじめたカップルほど、破局が訪れるのが早いのと同じ理由ですね。

しかし、せっかくのジャズに興味を持ったのであれば、できれば長く楽しみたいですよね?

であれば、外側だけではなく、内側のほうにも関心が向く感性を育んだほうが、末永くジャズを楽しめるのではないかと思い、エヴァンス聴くなら、メロディを味わえるアルバムと、ハーモニーを味わえるアルバムの2枚を提案させていただきました。

記:2019/05/13

追記

外見重視・内面軽視の「面食いジャズおやじ」に関しては、以下の動画にて言及しています。
あとは、基本、上に書いてあることと同内容のことを話しています。