ジョーヘンの空虚感と、牧水的ドーハム

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先日アップした動画(⇒こちら)にいただいた2つのコメント。

まずは、早春さんからのコメント。

いや〜、嬉しいですね。このあたりのジャズメンは大好物です。
Page One だと私もLa Mesha が一番好きです。
冒頭の、人の温もりを感じさせるようなMacCoy のピアノが素晴らしいです。(冒頭のMacCoy というとNight Dreamer なども思い出しますが…。)
そしてその後に続く、空虚なテナーと寂しげなラッパの醸し出すニヒルな雰囲気が堪んないんですよね。
今も一人で聞きながら悦楽に浸ってます。

聞き返してみて気付きましたが、McCoy が入っていることでいつものジョーヘン=ドーハムサウンドに叙情的要素が加わって、湿り気のあるヒューマニックなサウンドになってますね。互いの良さを引き立てあっている好例のように思います。

 ところで、私とジョーヘンの出会いは父が持っていたOur Thing のCDでした。私がジャズを聞き出した頃には家にあったのですが、私のウォークマンに音源を残して行方不明に…(泣)。しかし、今でもあのアルバムは私のジョーヘン・ベストアルバムです。

このアルバムは全曲佳作だと今でも本気で思っています(笑)。
父の「合いの手のようなピアノがとてもいい」という勧めで聞いたのですがその通りで、ほとんどピアノレスのような荒いサウンドに軽く左のコードを挟むHil のそのセンスは、私もとても好きです。そのせいか、La Roca のドラミングの良さよりが引き出されていると思います。

このアルバムのアドリブ要素や荒いサウンドにはとても“ジャズ”を感じます。私は全曲大好きなのでなかなか選び難いのですが、推しの一曲はEscapade ですかね。

ドーハムの冒頭のロングトーンが非常に叙情的で白眉です。哀しげで孤高なラッパを聞いていると、なんだか牧水の「白鳥は哀しからずや~」を思い出しました。

Escapade とは「脱線」という意味ですが、脱線した彼らの向かった先はおそらくMode For Joe ではないでしょうか。In’n Out からドラムがElvin Jones に代わり、熱くパワフルなサウンドに変化していった到達点がBlue Note 卒業アルバムのこれだと思います。

こちらはちゃんとCDもあります。しかも父のと私のと2枚も(笑)。

語りだしたら止まらないくらい好きですが、何か起こりそうな緊張感の中での熱いプレイがたまりません。Morgan を始めFuller、Hutchersonのソロプレイ、Walton の作曲、Chambers の引き締まったドラミング、Free Wheelin’ のRon のイントロなど、聞きどころには限りがありません。

私は、ジャズの最終到達点が見え始めていた’60年代初頭にフッとでてきたジョーヘンに愛着を感じて仕方ありません。本当にこの話題を取り上げて頂いてありがとうございました。

最近は短くまとめるよう努めていたのですが、どうも駄目ですね。好きなこととなるとつい…。誠に済みませんでした。読んで頂いた方、本当にありがとうございました(汗)。

早春さんの弟さん、ゆるくさんからのコメント。

ジョー・ヘンダーソンの演奏ではリコーダ・ミーが好きですかね。
後にリニー・ロスネスのヴァージョンも聞きましたが、やはりあの曲はジョー独特の空虚感があった方がいいような気がします。
とは言いつつも、Y Ya La Quieroの熱いジョーのプレイも好きですが(笑)。

兄弟そろってジョーヘン(ジョー・ヘンダーソン)が大好きなようです。

お二人そろって「空虚」という言葉を使われていますが、
いやはや、さすがの若き感受性です。

ケニー・ドーハムのトランペットに関しては、
若山牧水の歌を引き合いに出すところなんてサスガです。

私も『アワ・シング』は、ジョーヘンの隠れ名盤だと思ってますので、お二人にお返事するようなカタチで動画をアップしました。

いやぁ、やっぱりいいね、
ティーター・トッター。

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ちなみに、私もリニー・ロスネスの『黒水仙』にはいっている《リコーダ・ミー》を聞きましたが、これは、なかなかエキサイティングで、文句のつけようのあろうはずのない、非常にまとまった演奏だと思いました。
ルイス・ナッシュのドラムも好サポートだし。
本当、「演奏的」には素晴らしい。

ただ、楽器がめちゃくちゃ巧い人たちによる、ものすごくまとまった演奏であることには違いないのですが、(楽器やってる人がこれだけ出来れば本望でしょう)ゆるくさんが仰る、「空虚感」漂うジョーヘンの《リコーダ・ミー》のほうが、個人的には、えも言われぬ味わいがあって深い趣きを感じます。

あの、ハービー・ハンコックをも魅了しまくったリニー・ロスネスのピアノ、私は嫌いではないのですが、こと、今回の遡上に乗った《リコーダ・ミー》に関しては、「アメリカの大学院卒の雄弁女史によるプレゼンテーション」を聞いているような気分になってしまうんですよね。

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コメント

動画にいただいたコメントを紹介します。

早春さんからのコメント。

コメント返しして頂きありがとうございました。

というか、私の長文に付き合って頂き申し訳ありませんでした(笑)。

“聞こえないピアノ”とは流石ですね。私はその言葉までは辿り着けませんでした…。

私は短歌も和歌も全然詳しくないのですが、なぜだかフッと思い出しました。私は短歌だと寺山修司の「一粒の向日葵の種まきしのみに荒野をわれの処女地と呼びき」が好きですね。この青い孤独感、淋しさがとても心に沁みます。

 私がジョーヘンを知ったのは、ジャズを聴き始めて半年ほど立った頃だったと思いますが、抵抗なく好きになったのは家庭環境のせいだと思います。なぜだかColtrane でもWayne でもなくJoe 、ピアノならWalton 、ラッパならMorgan とWoody という環境でしたので(笑)。

メインストリームからちょっと逸れた奴がカッコいい、という価値観なんでしょうね。私と弟でジャズメン人気投票をすると、かぶるジャズメンはいつもCeder Walton 、Mal Waldron 、ジョンスコそしてジョーヘンという感じです…。もうどうしようもないですね(笑)。

 全く関係のない話なのですが、最近’90~2020年代の音楽を聞く中である楽曲に出会い、心底感動しました。今年知った音楽表現の中で最も素晴らしかったです。ブログに書いてみましたので(こちら)、お暇でしたら読んでいただけると幸いです。ありがとうございました。

Tetsuo Nambaさんからのコメント。

毎度茶々を入れて申し訳ないのですが、「escapade」を「脱線」と訳すとニュアンスが違う気がします。本来は規制や束縛から離れた (escape) 思い切った行動を意味する言葉です。だから「突飛な行動」のように訳されます。

言葉も音楽もニュアンスを無視すると誤解されることがあるので、気を付けたいですね。(僕は苦い経験が沢山あります)

長谷川孝二さんからのコメント。

ピアニストは往々にして、音数が多くなる傾向があるし、それがフロントに取って時に自由度を制限してしまう場合がありますね。

ピアノは良くも悪くもピアノ一台で完成させられる楽器なので、他の楽器の実力が少し頼りないメンバーばかりでのジャムセッションが主な演奏現場のピアノ弾きは、どうしても【良かれと】弾きすぎる傾向がありますね。実力に自信がない初心者にはピアノがそのくらい埋めてくれたほうがやりやすかったりしますからね。

でも、ある程度の実力があってじっくりと空間を感じさせるソロを組み立てたいフロントやボーカルに取っては、逆にデリカシーさが無いピアノに感じてしまう場合があります。

裏を返せば、何かトラブルがあった時や他のメンバー達の迷子になった時に「ここだよ」や「行くよ!」みたいなリーダーシップを取れやすいですね。

そのまた裏を返せば(笑)ピアノが自信無さそうにコンピングするとバンドそのものを崩壊させます。

良くも悪くもかなりの支配力のある楽器だと思います。

ゆるくさんからのコメント。

コメント返しありがとうございます。

僕はジョー・ヘンダーソンの演奏とリニー・ロスネスの演奏では圧倒的にジョーの演奏の方が好きですね。

ロスネスはやはりフレッシュすぎ、まとまりすぎな気(高野さんの言葉を借りれば「優等生的」)がします。別にきれいでフレッシュに収まっていてもいい演奏はあるのですが(例えばマンハッタン・トリニティの「ザ・ジェントル・レイン」)、ロスネスの場合は「フレッシュ」な印象があまりにも強く、「そんなにびしびししなくても」という気になってきます。

’80年代以降のピアニストは、ごく一部を除いて「フレッシュな優等生」というタイプの人が多く、ちょっと飽きが来るのが早いですね。もっと変な人はいないかなぁ?