アール・ハインズの「色香」とレイ・ブラウンのベース教則本、その他のベース教則本についてあれこれ

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先日アップした動画「【コメント返し】アール・ハインズ小論争 岩浪洋三 vs. 油井正一」(こちら)に視聴者さまよりいただいたコメントに対してのアンサー動画をアップしました。

コメント

TAKESI0506さんからのコメント。

私は不勉強のため、納浩一というベース奏者のことは全く知りませんでした😥
 98年のスイングジャーナルに「楽器別JAZZマスター事典」のベース篇を、納さんが書いています。

 今回、楽器別JAZZマスター事典のベース篇を担当する納浩一です。よろしく。
 改めて僕がいうまでもなく、ジャズにおいていかにベースが重要な位置を占めているかということは読者のみなさんもよくご承知だと思いますが、ジャズの発展とともにベースという楽器がどのように変化したか、さらには、あえてベーシストという立場から独断と偏見でいわせていただくならば、ベースの進化とともにジャズという音楽がどう変わってきたかという視点も含めて、簡単にジャズ史を振り返ってみたいと思います。
 ジャズのもっとも初期の段階ではハーモニーの根音とリズムののり、いわゆるグループを担当するのはアコースティック・ベースよりもチューバが主であったといえるしょう。もちろん楽団によってはクラシックのように、ベース奏者が弓によるアルコ奏法でベースを弾いている場合もありましたが、やはり弓弾きでは音量もしれていますし、なによりもジャズの命であるグループ感が出ないということがその大きな理由でしょう。しかしベース奏者が、指で弾くいわゆるピチカートという、クラシックでは補助的にすぎなかった奏法をその演奏上の中心にすることと、マイクなどの音を拡声するための機器の発展といった電気的技術の進化という要因があって、ジャズにおけるベースの地位は劇的に変化したといえます。チャーリー・パーカーが大活躍したビ・バップ創世期と時をおなじくして、ベース界にもすでにレッド・ミッチェルやジミー・ブランドンといった、今から考えても超絶といえるテクニックと音楽性を駆使したすばらしいベーシストが出現していましたが、その頂点に立つのがレイ・ブラウンとポール・チェンバーズ、そしてスコット・ラファロではないでしょうか。
 1960年代後半からは、ベース・アンプとベース本体に着脱可能なコンパクトなピックアップの出現によってベースの音量加飛躍的に大きくなり、それに伴ってそれ以前ではベースで演奏できるとは思えないようなフレーズを縦横無尽に操るベーシストが多数出現し、ベースがジャズという音楽の進化にもっとも大きな影響を与える要囚の一つとなる時期が到来したといえます。ミロスラフ・ビトウス、デイブ・ホランド、ロン・カーターといった人たちたちがこの時期を代表するベーシストでしょう。革新的なベーシストの演奏が、彼らの在籍するジャズ・コンボの音楽をそれ以前とは全く違ったものに進化させたといっても言い過ぎではないと思います。
 そしてその次の段階がエレクトリック・ベースの出現です。その中でも突出した存在がジャコ・パストリアスでしょう。彼は、それまで主にバンドのグループを支えるだけに終わっていたエレクトリック・ベースの役割をアコースティック・ベースに負けない、ジャズにおいて十分主役となれる楽器へと引き上げた第一人者といえます。彼に続いて次々とすばらしいエレクトリック・ベース奏者が現れ続けていることは、みなさんもよくご存知だと思います。
 もちろんすばらしいアコースティック・ベース奏者も、同様に次々と現れていることから分かるように、現在のジャズ・シーンを語る時においてベースはその最も重要な要素の一つです。
 ではなぜジャズにおいてベースがそれほどまでに重要なのかについて僕なりの意見を述べたいと思います。ジャズの演奏を耳にするとき、ことリズムについていうならどうしてもドラムがその中心的な役割を果たしているように聞こえがちですが、僕は経験上その中心はやはりベースであり、ドラムスももちろんリズムに関してとても重要な部分ではありますが、しかしどちらかというとリズム隊とソリストの架け橋的な存在だと捉えています。1小節にたった4つという制約の中でベースが繰り出すウォーキング・ベース・ラインは、今もいったとおりリズムの芯となり、なおかつハーモニーの芯となります。その揺るぎない芯の上で、ドラムスとソリストが自由奔放に会話し、さらには暴れ回るというのがジャズのコンボにおいての理想的な状況ではないでしょうか。
 また4ビート以外でも、最近のフュージョンやファンク、ポップスなどにおいて、たった一つのかっこいいベース・パターンのみで成り立っている楽曲もあるほど、ベースというのはその楽曲において重要な部分となっています。おそらく普通のリスナーにまず最初に自然に聞こえてくるのがメロディーとベース・ラインという、いわゆる最高音と最低音であるからでしょう。またサンバ、ボサノバといったブラジル音楽やサルサに代表されるワールド・ミュージックはそれぞれ固有のベース・パターンをもっており、ジャズという音楽をとりまく状況が変化を続け、他の音楽との垣根がますます低くなっている現在、ベースの役割はさらに重要になってきているといえます。

納氏のベースや譜例は「分かりやすい」という特徴があるのですが、文章も分かりやすいですね。

2023年8月3日 09:52