ジャズを聴こうにも、こうもアーティストの数が多すぎると、誰から聴けば良いのかわからない!
おそらく、多くのジャズ入門者はそうお感じになられると思います。
私もそうでした。
とにかく、レコード屋(当時はCDショップではなくレコード屋でした)のジャズコーナーに行くと、輸入盤独特の香りの空間の中、見知らぬアーティストたちのジャケットに囲まれ、いったいどこから手をつけてよいのか途方に暮れた記憶があります。
このジャズコーナーで、手慣れた手付きでエサ箱漁り(レコード探し)をしている人たち全員が、別世界に住む怖い異次元人に見えたものです(じつは今でもCDショップのジャズコーナーで真剣な表情でアルバム探しをしている人を見るとそう感じます)。
そこで私がとった方法は、初心者向けのガイド本を購入し、とにかく著者がおすすめしているアーティスト(ジャズマン)を、1から順に集めていくこと。
この際、好き嫌いなどは無視して、とにかくできるだけ本で紹介されたアーティストのアルバムを一人のジャズマンに偏らないように幅広く買っては聴く、買っては聴くを繰り替えしていました。
好き嫌いは無視してと書きましたが、そもそも未聴なので好きも嫌いもないんですけどね……。
私が頼りにしていたガイド本は、油井正一先生の『ジャズ―ベスト・レコード・コレクション』と、後藤雅洋マスターの『ジャズ・オブ・パラダイス』でした。
もちろん、他の書籍も参考にはしていましたが、購入したアルバムのページにシルシをつけていたのは上記2冊でしたね。
とにかく穴が開くほど本の活字を読み込み、聴きたいアルバムの優先順位をつけ、それをメモって売り場に行くのです。
もちろん、お目当てのアルバムが店頭にない場合も多いです。
そういう時は、優先順位の2番を、それもなければ3番目を探して買っていくわけです。
そして帰宅後、はやる気持ちをおさえながらCDの封を切り(当時は輸入盤ばかり買っていたので)、買ったアルバムの解説が書かれている活字を読みながら、じっくりと耳を澄ましていました。
しかし、インターネットがある今、というよりYouTubeがある現在、そんなまどろっこしいことをする必要はなくなりましたね。
自宅で気軽にYouTubeで「視聴」することが出来ますから。
ほか、アマゾンなどの会員になっていれば、かなりの量をカバーすることが出来ます。
もちろん、聴きたい音源を探せない場合もあるかもしれませんが、「いわゆるジャズの名盤」かつ「代表作」と世間的に認知されているもののほとんどはアップされているように思います。
しかし、問題はどういうキーワードで検索するか、ですよね。
アーティストの名前やアルバムタイトルが分からなければ、YouTube上で検索しようがありません。
そういう場合は、やはり書籍に頼ったほうが良いと思います。
もちろん、ネット上ではジャズ入門を謳ったサイトやブログはたくさんありますが、私の見た限り、こう言っちゃ大変失礼なのですが、薄くて浅いものな多い気がします。
なんというか、かけ算の九九にたとえて見れば、9の段までは暗記していないけれども4の段まではマスターしている小学生が、まだ1の段に手こずっているクラスメイトに覚え方を教えているような感じなのです。
つまりは、入り口より数歩は奥に踏み入れた人が、まだ入り口手前で手招きをしているような感じ?
……このもどかしい感じ、うまく言えなくて申し訳ないのですが。
もちろん、かなり熱のはいった紹介と、この人はホンモノだ!と思わせる紹介ページもあるのですが、全体的にはごくごく少数です。
ですので、やはり編集者(いわばプロの第三者)の手がはいった書籍を一冊ガイド代わりに活用したほうが、「おいしいジャズ」にありつけ、かつ「楽しみ」に到達するまでの時間が短いと経験的には感じるんですね。
ではオススメの本は?となると、先述した上記2冊がおすすめなことは言うまでもありませんが、少々古いことも否めません。
であれば、比較的最近出版され、かつ興味を持ってもらえる構造、構成になっている本を2冊挙げるとしたら、まず一冊めには、後藤雅洋氏の『一生モノのジャズ名盤500 (小学館101新書)』をオススメしたいと思います。
50年以上もの長きにわたり四ツ谷のジャズ喫茶「いーぐる」のマスターをされてきた後藤さんのたしかなセレクトと、数多くのジャズの書籍、レビューを手掛けてきた経験に裏打ちされた、わかりやすく初心者のツボを確実にとらえるテキストが魅力です。
何をかくそう、後藤さんは私が学生時代にアルバイトをしていたジャズ喫茶のマスターですので、ジャズへの思い入れの強度、腕ずくでも相手を快楽ジャズ地獄へと引きずり込まずにはいられない腕力の強さは私自身よ~く知っていますから、誰でもきちんと読めば、きちんと期待に応えてくれる内容なはずです。
口うるさいジャズマニアから、何もしらない初心者まで多くの音楽好きを相手にされ、さらに初心者を対象にしてお書きになられた原稿のテキスト量も、おそらく日本一でしょう。
いつだったか、閉店後のお店で「雲ちゃん、俺は初心者だからって手は絶対に抜かないし、いつだって俺はガチだよ! 半端な気持ちでジャズ評論書いたことはこれまでただの一度もないよ」と仰られていましたが、そのような気概と矜持をお持ちの方が書かれた入門者向けの本なのですから、必ずや有効なガイドとなってくれることは間違いありません。
とはいえ、この本での後藤さんの語り口は一環としてマイルドで優しいのでご安心を。
個人的には『ジャズ・オブ・パラダイス』の少々攻撃的で辛口な文体のほうが好きなのですが、これはまあ想定したターゲットの違いでしょう。
『ジャズ・オブ・パラダイス』は、今おもえば、ある程度ジャズを聴いている人に向けて書かれた内容の本だったのかもしれません。
とにもかくにも、この本に紹介されているジャズマンの名前やアルバムタイトルを手掛かりに、音源を検索して聴き始めると良いのではないかと思います。
必ず「おお、これは!」と胸高鳴るジャズに出会えることでしょう。
そして、もう一冊。
手前味噌で申し訳ないのですが、拙著『ビジネスマンのための(こっそり)ジャズ入門』がおすすめです。
自分で言うのもおこがましいのですが、けっこういい本だと思います(笑)。
私がこの本を書いた時は、もうすでに書店の音楽本コーナーにはジャズ入門の本があふれかえっていました。
しかし、そのような中でさらに「入門書」を世に送り出すとしたら、従来の入門書とは異なるアプローチが必要です。
ですので、あえて「擬人化」「レトリック」を前面に押し出したコンセプトで入門書を書いてみました。
なぜかというと、ジャズは人で聴く音楽、ジャズは人の個性で聴く音楽です。
そして、ジャズマンには個性的な演奏をする人が多く、逆に没個性的な演奏をする大物ジャズマンはいません。
この個性を掴んでしまえば、ジャズが急速に身近なものに感じられるものなのっです。
ですので、中小企業の社長、営業マン、技術開発主任、飲み屋のオヤジ(笑)などと、「働くおじさん」にジャズマンをなぞらえて解説したのがこの本なのです。
取り上げているジャズマンは、誰もが認めるジャズジャイアンツばかりなので、この本で紹介したアーティストを順に聴いていくだけで、おおまかなモダンジャズの見取り図はイメージできるのではないかと考えています。
いずれにしても、あくまで私の考えではあるのですが、ジャズに入門したい方は、手当たり次第にネットサーフィンをしまくるよりも、一冊、古本でもいいので廉価で購入したジャズ本を傍らに一冊置きながら、好みのジャズ探しをしたほうが、ジャズを心から楽しめる境地に早く達することが出来るのではないかと考えています。
お試しあれ!